公開日 2023年12月14日
更新日 2023年12月14日
令和5年12月釜石市議会定例会の初日に、小野市長がこれからの市政運営についての所信を表明しました。
そこで、ここにその全文を掲載します。
所信表明
1.はじめに
令和5年12月釜石市議会定例会の開会にあたり、ご挨拶を兼ね、所信の一端を申し述べます。
去る11月の釜石市長選挙において、私は市民の皆様のご支持をいただき当選し、11月18日、市長に就任いたしました。
東日本大震災の発生から12年と9か月という月日が経ちます。震災において、当市は甚大な被害を受け、多くの尊い命と財産を失いました。ここに、犠牲になられた方々に衷心より哀悼の意を表するとともに、被災された皆様を始め、地権者の皆様など多くの関係者のご協力に心から感謝申し上げます。
この12年間、当市は、まさに市民一丸となって復旧・復興に全力で取り組んでまいりました。昨年度末に水海地区避難道路整備事業が竣工し、復興に関連する全てのハード事業が完了し、これから当市は、「新たな時代」を迎えます。
当市においては、長きに渡る人口減少と少子高齢化の中でコロナ禍や原油価格、物価の高騰により、事業者はもとより市民生活全般においても大きな影響を受けており、先行き不透明な状況が続いております。
この現状を考えますと、釜石市長という責任の重さを実感するとともに、これまで度重なる苦難に見舞われながらも市民の先頭に立って市政運営に当たられた歴代市長、特にも震災からの復旧・復興にご尽力いただきました野田前市長のご功績に改めて敬意を表します。
市民の負託にこたえるため、これまで市議会議員、県議会議員として市勢と県勢の発展、地域の振興に努めてきた「経験」と「カン」と「人脈」、「バランス感覚」、そして「思い」を釜石の発展のために活かして、三陸沿岸の拠点として力強く飛躍するふるさと釜石を創っていくことを強く決意しております。
それでは、市長としての私の基本的な考えと政策を申し述べます。
2.基本的な考え
はじめに、私のまちづくりにおける基本的な考えについて申し上げます。
(市民とともに創る 誇るべき郷土かまいし)
1つ目は、「市民とともに創る 誇るべき郷土かまいし」であります。
超少子高齢化が進み、多様化の一途をたどる社会において、当市におきましても、地域の担い手が減少しており、多様化する市民ニーズや地域課題に市役所だけで応えていくことが難しいのは明確であります。
市民の皆様には、それぞれの持ち場で積極的に活動していただきたいと思います。そうした活動が地域課題の解決につながることはもちろんのこと、健康寿命の延伸、この地域で生きる喜びの醸成、さらには地域の活力につながっていくものと考えます。
先人たちから受け継いだ郷土釜石を最高の状態で次の世代に引き継ぐため、地域課題の解決に向けて市民の皆様との対話を大切にしながら知恵を出し合い、協力してまちづくりを進めるとともに、地域を担う人材の育成にも取り組んでまいります。
また、そのうえで大切になってくるのが、市民の皆様に必要な情報を分かりやすく伝える情報発信です。地域の魅力や取組をしっかりと情報発信することで地域活動への参加を促しながら、この地域に愛着を持ち、「住んで良かった」と思ってもらえるよう積極的にシティプロモーションに取り組むとともに、市民の皆様からの声をしっかりと施策に反映しながら、市民の皆様とともに一歩ずつ歩みを進めてまいります。
(新たな時代に向けた行財政基盤の再構築)
2つ目は、「新たな時代に向けた行財政基盤の再構築」であります。
将来この地域に住むであろう私たちの子どもの世代、孫の世代を考えることが、今を生きる私たちの責務であり、その対応と準備をしなければなりません。
人口減少による市税の落ち込みに加え、新型コロナウイルスの感染拡大や原油価格、原材料価格の高騰により地域経済は大きな影響を受けており、当市の財政状況は一層厳しさを増しております。
当市の令和4年度決算の経常収支比率は、98.2%と県内14市平均と比較しても高く、財政構造の硬直化が進んでいる状況にあることに加え、当市の公共施設の維持管理は、公共施設等総合管理計画による推計結果から将来の財源不足は明らかであり、これから10年先、20年先を見据えて行財政基盤を再構築し、次世代に負担を残さない財政運営を行ってまいります。
まず、私は、釜石市役所という組織を変えなければならないと考えております。
事業の実施につきましては、事業評価を行いながら、継承すべきものは継承し、改革すべきものは改革するメリハリの効いた予算編成を行ってまいります。また、職員一人ひとりが、新しい発想で挑戦できるよう個々の力を大切にしながら組織の力を最大限に生かすための組織づくりを行うほか、様々な課題に対応できるよう組織横断的な仕組みづくりにも取り組んでまいります。
3.4つの柱
次に、優先して実施する施策でありますが、私は、行政の継続性の観点から、現在の釜石市の行財政運営の最高指針である第六次釜石市総合計画を継承しながら、4つの柱を位置付け、今後4年間、特に力を入れて推進してまいります。
(地域医療の充実)
1つ目の柱は、地域医療の充実です。誰もが安心して必要な医療を受けられることは市民共通の願いです。
当地域で唯一の急性期病院である岩手県立釜石病院は、県内の県立病院の中で最も古い建物であり、昭和52年の移転新築から46年が経過しております。各種設備も老朽化し、建替え整備が必要な状況となっていることから、岩手県に対し、県立釜石病院の建替え及び機能強化を強く要望してまいります。
また、全国的に人口減少とともに医療の担い手不足が懸念される中、当市においても地域内の医療機関において医療スタッフを確保することが難しくなっていくことが予想されます。
このことから、地域内の医療機関相互間の機能分担及び業務連携を推進し、地域において質が高く効率的な医療提供体制を確保することを目的に、釜石医師会及び関係各医療機関等と連携し、地域医療連携推進法人の設立に向けた取組を始めます。
医師確保につきましては、岩手県では、県内に不足する医師の養成と確保を目的として、将来県内の公的病院等の医師として業務に従事する意思のある岩手県出身者に対し、奨学金を貸し付けすることにより就学を支援しておりますが、当市におきましても、こうした動きに加えて地域で働く医師の確保に向けた取組について、検討を行ってまいります。
(子育て支援)
2つ目の柱は子育て支援です。子どもは地域の宝です。将来の釜石を創っていくのは今の子ども達です。地域で生まれる子ども達を大切にし、安心して子どもを産み育てることができる環境の整備に努めます。
国においては、児童虐待の相談対応件数の増加等を背景として、子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化等を図るため、令和4年6月に児童福祉法を改正し、子育て世代包括支援センターと子ども家庭総合支援拠点の設立意義や機能を維持した上で組織を見直し、市区町村において、全ての妊産婦や子ども、子育て世帯へ一体的に相談支援を行う機能を有する「こども家庭センター」の設置に努めることとされております。
こうした動きに対応し、今後、必要な情報やサービスをワンストップで提供でき、切れ目のない包括的・継続的な支援を行う「こども家庭センター」の設置に向けて取り組みます。
また、全国の統計によれば、一組の夫婦の理想とする子ども数は平均2.42人とされておりますが、実際に産む子ども数と差が生じており、子どもを産まない理由で最も多いのが「子育てや教育にお金がかかりすぎる」という経済的理由であります。
子どもや妊産婦が居住地や世帯の所得等に左右されることなく、全国どこにいてもサービスを受けることができ、安心して妊娠・出産することができる社会にするため、経済的負担の軽減をはじめ、可処分所得の向上が図られるよう国や県に一層働きかけてまいります。
(教育の充実)
3つ目の柱は教育の充実です。将来の当市の発展を考えるうえで、人材の育成は最も大切な課題であると認識しております。良い施策を考えるのは「人」であり、それを実行するのも「人」です。当市の将来を担い、世界に通用する人材を育成するため、人間性豊かな児童・生徒の健全育成と学力向上に向け、学校規模の適正化・適正配置などによる教育環境の整備に努めます。
私が市長に就任した直後の去る11月18日、19日の2日間に渡り、「海と希望の学園祭in Kamaishi」が開催されました。この催しでは、東京大学にある11の附置研究所のうち、大気海洋研究所、社会科学研究所、生産技術研究所、先端科学技術研究センターの4つの所長が当市にお越しになり、まさに最先端の技術や研究内容をご紹介いただきました。東京大学の先生のお一人が、「東京都内でも4つの所長が集まってシンポジウムを開催することはできないのに、なぜ釜石に集まっているのか不思議だ」と話しておられました。
私は、ここに釜石市が行う人材育成のヒントが隠されていると思いました。当市がこれまで培ってきた歴史や取組の中に、釜石でしかできない素晴らしい教育環境があることを再認識させられました。
第六次釜石市総合計画の将来像にある「一人ひとりが学びあう」社会を具現化するために取り組んでいる「釜石オープン・フィールド・カレッジ」の取組を私も踏襲しながら、中高校生の「海と希望の学園祭in Kamaishi」への参加や中高生を対象とした学習講習会の開催など、釜石らしい学びのデザインを加えていくことで一層充実させていきます。
(産業振興)
4つ目の柱は、産業振興です。
このような社会環境や産業構造の変化を的確に捉え、市内事業者や関係機関との意見交換や勉強会などを行いながら、地域経済の持続可能な発展に向け、取り組んでまいります。
長引くコロナ禍や原油価格、物価高騰の影響により、市内の景気、経済は非常に大きなダメージを受け、地域経済が低迷している状況にありますが、私自らのトップセールスによる企業誘致活動やポートセールスを行い、事業の継続、雇用の維持、消費喚起など必要な施策を展開しながら、力強く地域経済を支えてまいります。
当市の発展を支えてきた水産業につきましては、水産資源の減少等により、水揚量が減少していることに加え、近年の極端な秋サケやサンマの不漁は、釜石市魚市場や市内漁業協同組合の持続的な経営に大きな影響を及ぼしておりますが、近年、サクラマスを始めとした海面養殖事業やウニの畜養など新たな取組が始まっております。
こうした取組を推進することで漁家の方々が安定した収入を得ることができるよう支援に努めるとともに、市内漁業協同組合及び釜石市魚市場の経営の安定に向け、市及び関係機関と漁業関係者との会議の場を設け、課題を整理共有しながら水産分野の施策を充実させてまいります。
このほか、商業者の持続的な経営の後押しと市内における円滑な起業及び事業承継の支援、県内唯一のガントリークレーン稼働港湾という強みを生かした釜石港の更なる利便性の向上、地域経済の再生に不可欠な労働力の確保、震災以降の様々なつながりや交流を生かした観光振興、農林業や畜産業を始めとする第1次産業の持続的な振興、第2次・第3次産業であるものづくり産業や情報通信産業を生かした地域経済の活性化などに取り組んでまいります。
以上が、私が今後特に力を入れて推進する4つの柱になります。この他にも、人口減少への対策や健康寿命の延伸、持続可能な交通体系の構築、切迫性が危惧される巨大地震や激甚化している大雨災害への対応など、当市が持続的なまちづくりを進めていくうえで解決しなければならない課題が山積しておりますが、第六次釜石市総合計画に掲げる重点施策及び重点プロジェクトを中心に課題の解決に向けて取り組んでまいります。
4.結び
岩手県にゆかりのある高村光太郎先生は、自身の詩「岩手の人」の中で、岩手県民を次のように表現しております。「岩手の人眼(まなこ)静かに鼻梁(びりょう)秀で」、「岩手の人沈深(ちんしん)牛の如し」、「地を往きて走らず、企てて草卒(そうそつ)ならず、ついにその成すべきを成す」と。
「岩手の人は思慮深くまじめであり、冷静で決して慌てず、しかし最後には目的を成し遂げる」と描写しており、普通のことを普通に、当たり前のことを当たり前に行い、慌てず奇をてらうことなく、常に正攻法を取り、努力し続ける大切さを表現しております。
来たるべき激動混沌の時代の中で、釜石が生き残り、山積する課題を解決するための大きなカギがここにあるものと思います。当たり前のことを当たり前に行いながら、先人たちから引き継いだこの誇るべき郷土釜石を次の世代に最高の状態で引き継げるよう、市民が一丸となり、新たな時代を切り開く覚悟を持って力強く進んでまいりたいと存じますので、議員各位並びに市民の皆様の特段のご協力をお願い申し上げ、私の所信表明といたします。
この記事に関するお問い合わせ
PDFの閲覧にはAdobe社の無償のソフトウェア「Adobe Acrobat Reader」が必要です。下記のAdobe Acrobat Readerダウンロードページから入手してください。
Adobe Acrobat Readerダウンロード